エケコ人形

クスコから88キロほど離れたオリャンタイタンボは遺跡のすぐ下にある小さな街。観光で成り立っているのだろう、ものすごくツーリスティックな街で観光客向けのレストランや土産物屋ばかり。それなのにオリャンタイタンボはとても居心地がいい。
インカの時代から残る石垣に挟まれた狭い路地、水路、全くすれていない先住民の人たち、様々な民族衣装を着た人たちで賑わうメルカド、安くておいしい食事。散歩するにも色々と楽しめる。

今日、オリャンタイタンボの土産物の露店市を歩いていると、たった一体だけポツンと置かれているエケコ人形を発見。
エケコとはアンデス山脈のペルーからボリビアにかけての一帯に伝わる先住民の民間信仰
チョビヒゲをはやし、毛糸の帽子をかぶった太めの中年男性の人形に欲しい物の模型をぶら下げると願いが叶うという。
年に一度の供え物の露店市ではお目当ての供え物を求める人でたいそう賑わい、車、家、穀物、パスタや大学の卒業証書、家の権利書なんかのミニチュアまであるらしい。中でも人気があるのがドルやユーロなどの札束、パスポートやヨーロッパ諸国のVISAのミニチュアなどだという。

16世紀、この地にやってきたスペイン人は先住民に対してキリスト教への改宗を強制し、様々な風習も禁止した。エケコも同様に禁止されたが絶えることなく、逆に西洋の文化を取り入れながら現在まで続いている。
だからか、元々は裸だったという人形も現在はスーツを着ている。
先住民の習わしであるにもかかわらず、今では欧米系住民にも広がり、多くの家庭にこのおっさんが祀られているらしい。

スーツを着たエケコ人形はそこらじゅうの土産物屋でも見かけるが、今日自分が見つけたエケコのおっさんは民族衣装のポンチョと、他のエケコがかぶっている毛糸の帽子とはまるで訳が違う手の凝んだ先住民調の帽子を身に付けている。
さっそく値段交渉、言い値は25ソーレス(約930円)。そこから値切りに値切って8ソーレス(約300円)で購入。露店のおじさんの最後の最後に絞り出すようにして言った"オゥケィ"という言葉が、値切り過ぎちゃった?と感じるには十分すぎるほどだった。
確か、普通のエケコ人形で8ソーレス前後だったっけ。

露店市からの帰りしな、エケコ人形に何をつけようかしら、失ったパスポートなんかもいいな、とかそんな事を考えていると楽しくなってくる。
しかしなにより、日本を出る前から絶対に欲しいと思っていた唯一のものがこのエケコ人形だったのだから。